【コミュニケーション】


1 聞こえない人とのコミュニケーションについて

コミュニケーション手段(指導法)

コミュニケーション手段をどのように考え,どのように活用するのかが論じられています。平成7年5月,文部省からも「聴覚障害教育の手引き−多様なコミュニケーション手段とそれを活用した指導−」という本が出版されました。この手引きを要約すると,手指法については引き続き検討が必要と言いつつも,発達段階に沿った多様なコミュニケーション手段を検討し活用すべきとしています。
(1)聴覚法
主に聴覚によって聞き取る技能を伸ばしていくことを援助する方法。早期からの読み書きや読話(読唇)は奨められない。一般にこの方法は聴力障害が中程度の人々に対して用いられるが,時々重度の聴覚障害の生徒にも同様に用いられている。

(2)口話法   
聞こえない人にも声を使って会話ができるようにすることを目指し,またそれを手がかりに日本語を身に付けられるようにすることを目的とした指導法。今は補聴器の性能もよくなり,また補聴器が役に立たないような高度の聴覚障害がある場合も人工内耳手術により,ある程度聴覚活用ができるようになったりする。障害のある聴覚を補聴器や人工内耳で補い,聴覚を活用して口話の力を付ける指導を聴覚口話法と言う。

(3)指文字
五十音の仮名文字に対応した手指の形態であり,その動きによって,拗音,促音,濁音及び長音など,国語の音韻を表現することができる記号である。コミュニケーションにおいては,指文字が単独で用いられることはほとんど無く,話しことばや手話との併用が大部分である。多くは,指文字が助詞などや固有名詞を表示したり,あるいは手話の語彙の構成部分となったりする。

(4)手話法  
@ 日本手話

日本手話は,手や身体を使って空間に表される言語である,目で見て受け入れる言語であるという手話の特徴を最大限に生かして文法関係を組み立てて,日本語の文法や語彙とは別の独立した体系を持っている。日本手話という言い方は「聾者の用いる手話は,音声言語に匹敵する,複雑で洗練された構造をもつ言語である」という主張を含んでいる。

A 日本語対応手話
日本語を,音声でなく,手指で表そうとするもの。「口話教育では聾児に日本語を獲得させることが難しい,聞こえないのであるから手話という手段を使って日本語教育をしたらどうか」という発想で,昭和45年から栃木県立聾学校で「同時法」として,手話を使った聾教育が始まった。幼稚部から,小学部3年までは指文字,小学部4年から日本語に対応した手話を導入していくという方法。日本語対応手話(同時法手話)では,語順は日本語の語順にあわせ,助詞や助動詞は,指文字や手話と口形できちんと表す。語彙は日本語の単語を対応させて使う。

B 中間型手話
日本語対応手話と日本手話の中間にある手話というニュアンスで中間型手話と呼ばれるものがある。主に成人の聴覚障害者と手話を理解する聴者(※)との間で使われている。口話と併用するが,手話だけになることもある。
 中間型手話では,原則として日本語の語順に従って表現するが,空間の配置をうまく利用したり,何が話題になっているかを最初に説明したりするという手話の特徴から,日本語の語順に従わない場合もある。
  手話単語は,日本手話の単語を使うことが多いので,一つの日本語の単語に対して,文脈に応じていろいろな手話単語を用いる。

※聴者…聾者や難聴者に対してきこえる人(聴覚障害のない人)のこと。

(5)同時法
口話法に手話と指文字を加えた組み合わせを特徴としている。読話,音声増幅,手話,指文字によって教えられる。

(6)キュードスピーチ
国語の音韻を5つの母音口形と音素レベルで表象する記号(キュー)との組み合わせによって表現する方法である。この方法によって,国語の音韻を視覚的に識別し,受容したり表出したりすることができるので,聴覚障害児にとっては,非常に有効な手段といえる。また,キュードスピーチで用いられる手指の形態やその動きは,記号として発音要領を表しているので,子どもがある音韻の発音要領を確認し,自ら発音を矯正する意味でも有効である。

(7)筆談
文字で書いて聴覚障害者に伝える方法。日本語を身に付けている聴覚障害者全般に有効だが,未就学の聴覚障害者には通用しないこともある。中途失聴で失聴間もない人には,特に有効。また,高齢で徐々に難聴になった人に細かい話をするときなどは,正確に伝えるための補助手段として重要である。

(8)トータルコミュニケーション
聾者との,または聾者同士のコミュニケーションを実効あるものとして保障するために,コミュニケーション方法である聴覚法,口話法,手話法を合体させるという理念をもっている。

(9)バイリンガル・バイカルチャー
手話を第一言語とし,その国で一般的に使われている言語を第二言語とするということ。手話を第一言語とする理由に
・聾児にとって手話がわかりやすいことばであること。
・聾児のことばであること。
・コミュニケーションの力はわかりやすいことばを使ってこそ育つこと
等がある。第二の特徴は,手話を第一言語として習得させたあと(または平行して)習得した手話をもとにしてその国のことばの読み書きを教えるということである。

参考資料

「聴覚障害教育の手引き」平成七年 文部省
「聾・聴覚障害百科事典」2002年 著者:キャロル・ターキントン,アレン・E.サスマン
               監訳者:中野善達,明石書店

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